[異種のごちそう 麦パンを分け合って]
         
         


登場人物
◆エリク・リリック(エリク) 歌うことで周囲に影響を与えてしまう異種。愉快、生真面目、無邪気。
◆サネジア・サムサラ(サネジア) 病気をする以外のことでは死なない異種。心配性、毒舌、裏返しの信頼。
◆オルディ・ラビティ(オルディ) 重力の影響を受けることができない異種。明るい、煩い、馬鹿ではない。
◆フェン・フィール(フェン) 鋭い五感を持つ異種。朴訥、気だるい、布団が友達。


作品に関する 利用規約 をご覧ください。
このお話の舞台となる世界については 異種のごちそうの世界  に少しまとめております。

※設定上、登場人物は全員男性ですが、性別や一人称などに関し、変更していただいても構いません!
変更を加えた上で、生放送などで演じてくださる場合は、その旨を明記してください。

※今回エリクがお話の中で「きよしこの夜」を歌います。
また、オルディがクリスマスソング「ジングルベル」を(不完全ながら)歌いますので、上演前にご確認いただければと思います。
また今回、特にエリクに関して、キャラクターが違う場所にいながら、セリフが交錯するシーンがございます。ご留意ください!



所要時間目安/17~分

配役(0:0:4)
♂♀エリク:
♂♀サネジア:
♂♀オルディ:
♂♀フェン:







オルディ「サネジアぁ」

サネジア「ちょっと待て」(本を読んでいる)

オルディ「あいよん」

サネジア「……ああ、なんだ?」

オルディ「晩ご飯、パン何枚食べるぅ?」

サネジア「二枚」

オルディ「またまたサネジアったら嘘つき!」

サネジア「なんでだよ。嘘もクソもあるか」

オルディ「俺っちゃん最強のシェフだから予想してんの」

サネジア「誰が今日何枚パンを食うかって?」

オルディ「そうよん」

サネジア「当たるのか?」

オルディ「そんなん知るか!」

サネジア「知るかそんなん!!」

オルディ「今日お前は二枚じゃないと思ったんだよなー」

サネジア「根拠を言え、混線あみだくじ」

オルディ「2.6枚だと思ってたのになぁ」

サネジア「『.6(てんろく)』ってなんだ。出してみろよ逆に」

オルディ「言ったな? んっふふ、よぅし切るぞぉ」

サネジア「待て待てやめろ。そんなに入らん」

オルディ「じゃあ1.6枚?」

サネジア「……それだったらまだ」

オルディ「二枚ね?」

サネジア「おう」

オルディ「パン切りナイフ、今日も輝いてるな! 繰り返す、オーダーは、きっかり二枚だっ……麦パン覚悟!!」

サネジア「ふぅ。そろそろ日が沈むな」

オルディ「んん。どっちが先に帰ってくるかしらん」

サネジア「さあ、どうだろうな」

オルディ「フェンのやつは街でお買い物、エリクちゃんは海で拾い物」

サネジア「この時間まで帰ってこないとなると、あいつの買い物も相当手こずってるんだろうが、」



エリク「……乾き切った一対の流木。濡れ損なった海鳥の羽……うわ光った、ああ飛ばないでって言ったよね!?
    っしょ、っと、それと、日を蓄えた青い貝殻、でしょ……本っ当にこれで合ってるのかなぁ……ああ! 待ってーっ!」



サネジア「……エリクの奴、今頃慌ててんだろうな」

オルディ「おーいエリクちゃーん、エグいお遣い出した張本人が家で踏ん反り返って笑ってるぜー」



エリク「見てなきゃ、見てなきゃ……、日が沈む瞬間……! い、ま、今っ!」



サネジア「はん、魔術の材料を手に入れる方法なんて、大体エグいもんだ」

オルディ「『サネジアがやってる魔術の材料』の話ね?」

サネジア「そうとも言う」



エリク「『昼と夜を見たシーグラス』! 拾った、よし! これは出来たでしょ!」



オルディ「可哀想なエリク、せめて冬の海でも見て癒されておいで」

サネジア「寒ぃんだろうな」

オルディ「全力全開、安らかに眠りたまへ……」

フェン「っしょ、っと、ただいま」



エリク「うーっ、寒い寒い寒いっ! いー、確認しなきゃ。(分厚い袋の口を広げて)流木、羽、貝殻、ガラス。
    ……よし、って、飛ばないで、ってば!(羽を掴む) ……おお光る光る、ストップ! 帰るまでの辛、抱っ!(袋を閉じる)
    ふうー。さて、お使いは終わったし、……へへ、ちょっとくらい良いよね。(座る)
    誰もいない、かな……うん当たり前だよね! こんな寒い海にわざわざ来る人はいない! これ考えるとつらいけど!」



オルディ「おー、フェンおっかえりぃ!」

フェン「エリクはまだなんだ」

オルディ「うん、フェンがお先!」

フェン「可哀想に。材料拾ってるんでしょ」

サネジア「海だからな。……あいつが一番適任だ」

フェン「街も、風が強くて。縮むくらい寒かった」(荷物を下ろしながら)

サネジア「もう帰り始める頃だろう。……寄り道してなけりゃな」



エリク「きーよーしー、こーのよーるー……『星は ひかり』」



オルディ「あいつ寒すぎて、クリスマスソングを怒号で歌いながら帰ってくるんだ」

フェン「やめてよ、そんなの悲しい」

オルディ「『寒いなぁーっ! アー、ジングルベール!! ジングルベール!! すっずーがーなるー、シャンシャーン!』」

サネジア「ぶふっ、ふはっ」(噴き出す)



エリク「『すくいのみ子は まぶねの中に』」



オルディ「あーとーのー、かーしーはー、おもーいー出せないっ、ヘイッ!!」

フェン「やめてあげて。そんなエリク、面白すぎる」

サネジア「お前も大概だな」

オルディ「んふふ。……んー、良い感じ。ほら、シチューが待ってるぞぉ」



エリク「『ねむりたもう いとやすく』……本当に星が出てる、……ふぅー……」(寒さに息を吐く)



オルディ「だから、はやく帰っておいで、エリク」



エリク「……帰らなくちゃ」(立ち上がる)



サネジア「そういや、成果はどうだった?」

フェン「確認して。時期が時期だし、手に入りやすかった。石も色々と」(買い物を広げる)

サネジア「そうか」(手を伸ばす)

フェン「投げ売りしてたり。ほら」

サネジア「大きいな」

フェン「質もいいよ。風と土が混じって光ってた」

サネジア「ほう。店でそれが見えるなら相当だな。(灯りに透かして)……成る程?」

フェン「そんなのがごろごろしてた。見る目がないね」

サネジア「『見る目』か。言ってやるな、お前には敵わん」

フェン「ふふ。……あ、そっちのは彫ってもいいんじゃない」

サネジア「ああ、そうだな……ふむ」

フェン「ま、こんな感じ。買い物リストは埋まったよ」

サネジア「上々だ」

フェン「ひとつを除いては」

サネジア「……あの偏屈ジジイじゃねえだろうな?」

フェン「流石ですね、大正解ですよ、師匠」

サネジア「当てたくねえ時だってあんだよ、弟子。……ああマジかよ、面倒くせえ!」

オルディ「ハァッ、フェン!」

フェン「なに急に」

オルディ「お前、お前……!」

フェン「虫でも付いてる?」

オルディ「今日パンを何枚食べるというんだ……!」

フェン「……僕の答えに賭け金でも掛かってるの?」

サネジア「安心しろ。掛かってんのは晩飯のパンの枚数だけだ」

フェン「なんだ、残念。……メインは」

オルディ「今晩のあったかメニュー! 中身の詰まった麦パンと茹でカブを率いて、ど真ん中に来るのはだな!」

フェン「シチュー」

サネジア「お前は少しは乗ってやれ。……お前も勿体ぶらずにすぐ言えば良いのによ」

オルディ「いやぁ、最近むしろ当てて欲しくなってきたんだよねぇ」

フェン「いつでも答えるよ」

サネジア「ああ……馬鹿と馬鹿に馬鹿なアドバイスしちまった」

フェン「パン?」

オルディ「そうだ! 間違ってもそこのサネジアみたいに意地の悪い枚数を言うんじゃないぞ!」

フェン「サネジア何言ったの」

サネジア「……2.6枚?」

フェン「うわあ」

サネジア「言うかよ阿呆!」

フェン「ふふっ。……オルディ、僕は1.3枚」

オルディ「二人で3.9枚だと!? こんの意地悪フェン!」

サネジア「俺は二枚だっつったろ!」

オルディ「エリクに0.1枚しか残らないんだぞ!!」

サネジア「意地悪はてめぇだ! さっさと切れ!」


=====



フェン「……んー」(風呂から出てくる)

オルディ「フェン、お前風邪引く前に髪乾かせー?」

フェン「そうだね、……ふぁあ」(あくび)

オルディ「寝坊助ちゃんも禁ずる!」

フェン「よまれてる」

オルディ「起こすの大変なんだぞ!」

フェン「がんばる。……まだ帰ってきてないんだね」(髪を拭きながら)

オルディ「そうなのよん。先メシにしちゃおっかぁ」

フェン「……大丈夫かな」

オルディ「んふふ。心配?」

フェン「……んー……」

オルディ「大丈夫さ」

フェン「うん」

オルディ「信じてるでしょ?」

フェン「そうだね。信じてる、…………大げさ?」

オルディ「そんなことないよん」

フェン「そっか」

オルディ「フェンは、エリクのことが大事なんだねえ」

フェン「……オルディってさ」

オルディ「なあに?」

フェン「照れ臭いこと言うよね」

オルディ「ふっふーん。仕方ないだろぅ! 弁は立つくせに、口に出すのが苦手なぶきっちょさんばっかりなんだからな!」

フェン「ふふ」

オルディ「ご飯にしよ? サネジア呼んできてくれよ!」

フェン「部屋?」

オルディ「本の虫マン」

フェン「了解、……おっと」

エリク「ああー……寒いっ!」

フェン「エリク」

エリク「あ、フェン、ただいま!」

フェン「おかえり、エリク」

オルディ「おーう、エリクちゃん! 遅かったねえ、歌でも歌ってた?」

エリク「えっ! うた、う、歌ってないよ!?」

オルディ「歌ったな?」

フェン「歌ったね」

エリク「言ってないのに!!」

オルディ「じんぐるべー! じんぐるべー!」(極めて力強く適当に)

エリク「仮に歌ってもそうは歌わない!!」

フェン「ふふっ。サネジア引っ張り出して来る。荷物置いたら?」

エリク「ああ、うん」

オルディ「時間も時間だし、もうご飯にしようって話してたのよ」

エリク「そうだったんだ。待たせちゃったね」

オルディ「んーん、お疲れちゃん! はいお前さんのぶん」

エリク「シチューだ、いい匂い、お腹すいた!」

オルディ「じゃがいもが溶けてどっか行った!」

エリク「ははっ、じゃあ入ってたら当たりだね?」

オルディ「美味しすぎて見逃すんじゃないぞぅ?」

エリク「気が抜けない!」

オルディ「……先に飲む? 寒いでしょ」

エリク「ありがとう、紅茶?」

オルディ「この時期はうんと美味しいアップルティーだ!」

エリク「やった! これ好きなんだよねー……いただきまーす……(少し飲んで)あ、それちょうだい? 誰の?」

オルディ「これフェンね!」

エリク「はあい」

オルディ「スプーン、出番だ! おお、呼んだら四本来るとは偉いぞ! ……はいこれサネジアの」

エリク「はーい」

オルディ「そういやエリクちゃん、どうだった?」

エリク「お遣い? もうまず寒くて仕方なかった!」

オルディ「んん、だろうねえ」

エリク「サネジアがメモを渡してくれたけど、ううん、その通り拾えたかは判らないや」

オルディ「日暮れの瞬間に拾うものがあったんでしょ?」

エリク「そうそう」

オルディ「サネジアのやつ、わざわざその瞬間にお前さんの事笑ってたんだぞ?」

エリク「ええ! なんで!」

オルディ「『焦ってんだろうなあ』って!」

エリク「あの人鬼ですか!? 焦ったよ! もう!」

オルディ「んふふ。……そんでそんで?」

エリク「ん?」

オルディ「どうだった?」

エリク「なにが?」

オルディ「久しぶりだったんじゃないの? 海とのおデート」

エリク「……ふふ。そうだね、……一人で行ったのは、久しぶりだった。すごくきれいだった、夕方は、太陽の光が溶けて」

オルディ「うん」

エリク「溶けて溶けて、そのまま沈んで、気がついたら星が出てて。……静かに、ずうっと、ぜんぶが揺れて」

オルディ「んん」

エリク「寒かったけど、やっぱり心地よくて、きれいで大好きで……本当はちょっと歌っちゃった」

オルディ「んふふ、そうかそうか!」

エリク「サネジアには秘密にしてくれる?」

オルディ「おういいともさ! 俺っちゃんとエリクの秘密ね!」

エリク「へへ」

オルディ「その代わり、よく聞けエリクちゃん」

エリク「ん、なあに?」

オルディ「お前さんの今日の晩飯のパンは、0.1枚!」

エリク「れっ、れいてん、」

オルディ「詳しいことは意地悪な魔法使いーズに聞くんだな!!」

エリク「0.1ぃ!? ええ、薄いって事? どういう事ぉ!? (サネジアの部屋に向かって)サネジア、フェーン!?」

サネジア「なんだようるせえな、……お帰り」(出てくる)

エリク「ただいま、ねえサネジア! オルディに0.1枚って言われたんだけど!」

フェン「エリク、君に酷なお遣いを言い渡した、この悪い魔法使いのせいだよ」

エリク「ちょっと先生!?」

サネジア「……ちっ、あのシェフ。『何枚食べる』とは訊かなかったか」

フェン「賭けは僕の勝ちでいいね、サネジア」

サネジア「あー……何時起きだ……?」

フェン「早起きした方がいいよ。僕は今日三時間粘った」

サネジア「マジかよ」

フェン「頑張ってね」

サネジア「面倒くせえ!」

エリク「何の話っ!」

オルディ「さあパン切りナイフ! んっふふん、本日最後の仕事はとってもとぉっても難しいぞ! レッツゴーゴー!!」

エリク「ああオルディ待って! そのレッツゴーはひもじい!!」





=====


フェンM「ただいまと言うと、おかえりと返ってくる」

エリクM「ご飯を囲んで、いろいろ話す。寒いことも、あたたかいことも」

サネジアM「大事に決まってる」



オルディ「[異種のごちそう 麦パンを分け合って]」



オルディM「再三の要求を却下されたエリクが、薄い薄いパンを20枚食べきるまで、あと40分!」










20171223
加筆修正:


[山積台本]


<ぱちぱち>



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あとがき

家とは、人に帰路の魔法をかけるもの。
そう、きっと特に冬は。




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