[異種のごちそう 眠たがり命を拾う]




登場人物
◆エリク・リリック(エリク) 歌うことで周囲に影響を与えてしまう異種。愉快、生真面目、無邪気。
◆サネジア・サムサラ(サネジア) 病気をする以外のことでは死なない異種。心配性、毒舌、裏返しの信頼。
◆オルディ・ラビティ(オルディ) 重力の影響を受けることができない異種。明るい、煩い、馬鹿ではない。
◆フェン・フィール(フェン) 鋭い五感を持つ異種。朴訥、気だるい、布団が友達。


作品に関する 利用規約 をご覧ください。
このお話の舞台となる世界については 異種のごちそうの世界  に少しまとめております。

※設定上、登場人物は全員男性ですが、性別や一人称などに関し、変更していただいても構いません!
変更を加えた上で、生放送などで演じてくださる場合は、その旨を明記してください。


所要時間目安/15~18分

配役(0:0:4)
♂♀エリク:
♂♀サネジア:
♂♀オルディ:
♂♀フェン:












フェン「何してるの」

エリク「……」

フェン「それ以上行ったら死ぬよ」

エリク「ほっといて下さいよ」

フェン「自殺を見てるのって凄い苦行だよね」

エリク「バイバイさよなら、で良いじゃん」

フェン「自殺を否定してくれないと帰れないんだけど」

エリク「……ぼくにとっては今までが苦行だったんデスよ」

フェン「そう」

エリク「そう」

フェン「これから苦しみが消えて行くとは思わないの」

エリク「思わない。思えないから終わろうと思ってるんだよ?」

フェン「……チョコレート」

エリク「は?」

フェン「はい。あげる、食べて」

エリク「……いらない」

フェン「じゃあキャンディ」

エリク「いらない」

フェン「グミ」

エリク「だから」

フェン「キャラメル。クッキー」

エリク「どんだけ持ってんの!」

フェン「……チョコ……?」

エリク「最初に言ったよ!?」

フェン「じゃあ何なら良いんだよ。わがままな奴」

エリク「逆ギレ!」

フェン「……手出して」

エリク「別にどれもいらないよ」

フェン「違う。うちに来てよ。好きなお菓子があるかも」

エリク「……うん」


=====



オルディ「俺風呂入ろっかなー」

サネジア「オルディが先入ったら風呂場びしょびしょになるだろ」

オルディ「お前が掃除しながら入ればいいだろぉ!」

サネジア「なんで勝手に俺が掃除する事になってんだクズ野郎」

オルディ「ケチんぼ」

サネジア「しかも掃除しながらシャワーとかどんだけ器用なのよ」

オルディ「出来ないの?」

サネジア「お前には出来るってか?」

オルディ「出来るし」

サネジア「寝言は死んでから言え」

オルディ「死人に口はナッシング!」

サネジア「はぁ……俺も目疲れたわ。温まりたい」

オルディ「本読み過ぎでしょ」

サネジア「お前が読まなさ過ぎなんだよ」

オルディ「ただの文字の陳列棚でしょ!!」

サネジア「世界中の本に説教されろ!!」

オルディ「やなこった! ……んー、メシも温め直さなきゃねぇ」

サネジア「そうだな。あー、腹も減った」

オルディ「今日のメニューは名付けて、スペシャリティスト・シチュー」

サネジア「意味わかんねぇ」

オルディ「こないだ見つけたお店のパン付きだから、最上級にスペシャルなのさ」

サネジア「なるほど」

オルディ「試食、美味かったよね」

サネジア「そうだな。……フェン、遅いな」

オルディ「まーた迷子ちゃんなのかなぁ」

サネジア「迷ったんなら、コイツに連絡が入るはずだ」

オルディ「連絡? 腕時計に?」

サネジア「共鳴の呪文を埋め込んだんだ、この間な」

オルディ「なるほど」

サネジア「あいつにはペンダントにして持たせてる」

オルディ「わんこみたい」

サネジア「犬なら帰ってくるんだがな」

オルディ「ふふ、そうだね」


=====



フェン「ただいま」

サネジア「遅ぇよ間抜け……あ?」

フェン「僕の服貸してあげて」

サネジア「あぁ?」

フェン「濡れてるから風邪引く」

サネジア「……いや」

フェン「あと、今日こいつの分のメシもある?」

サネジア「フェン」

フェン「ん?」

サネジア「誰だよそいつは」

フェン「……名前聞いてなかった」

サネジア「馬鹿じゃねぇの」

エリク「ぼくも聞いてないですね!」

サネジア「馬鹿じゃねぇの!?」

フェン「海で死のうとしてた」

サネジア「ちょっと待て、もう色々追いつかねぇ」

エリク「あの、やっぱりぼく戻りま……」

オルディ「おぉ、おっかえりー!」

サネジア「お前は来んな! 事がややこしくなる!!」

オルディ「って、どうしたのさ! そいつずぶ濡れじゃん!」

サネジア「あぁもう」

オルディ「ちょっと入りなよ! 一緒にあったかくなろうぜ!」

フェン「タオル持ってくるから上がってて」

エリク「……スミマセン」

サネジア「はぁ……」


=====



オルディ「ふーん、浜辺でねぇ」

サネジア「これから正に死にますって時にフェンが」

エリク「お菓子くれたんですよ!」

サネジア「餌付けしてんじゃねえよ!」

フェン「結局あげてない」

エリク「いっぱい持ってたのにね」

サネジア「未遂で付いてきたってか!」

エリク「かっこ良かったんですよ! 言葉通り手を差し伸べてくれて」

フェン「やめて、恥ずかしい」

オルディ「フェンってば積極的だったのねっ!」

フェン「もうやめて」

エリク「あ、フェン、って言うんだね?」

フェン「ああ、うん。フェン・フィール」

サネジア「そういや、お前ら名前も聞いてなかったんだな」

オルディ「俺ちゃんはオルディ。オルディ・ラビティだよん」

エリク「エリクです! ……エリク・リリック」

サネジア「……サネジア」

エリク「え?」

サネジア「名前。サネジア・サムサラ」

エリク「あ、はい! サネジアさん!」

オルディ「んでんで? エリクちゃんはフェンに助けられて、今ここにいると」

エリク「そうデスね、助かっちゃいました」

オルディ「ほーう。まぁ、とりあえず今日はウチに泊まってけよ! もう日が変わっちゃうからね!」

エリク「え……いいの?」

サネジア「……好きにしろ」

エリク「じゃあ……お言葉に甘えマス」

フェン「……どうして死のうと思ったの」

エリク「へ?」

フェン「これからも苦しみは終わらない、って」

エリク「ああ……」

オルディ「悩みならぼくちん聞くよぅ?」

エリク「……引かないで、いてくれる?」

オルディ「わかんなーい!」

エリク「身も蓋もなーい!」

オルディ「だってまだ聞いてないしぃ」

エリク「それもそうデスね」

オルディ「でも聞くよ。何かあったの?」

エリク「……紅茶、良かったら、おかわりくれますか」

オルディ「もちろん! ちょっと待っててねー」


=====



エリク「美味しい」

オルディ「ふっふっふ、エリクの悩みを引き出す魔法が掛かってるのさ!」

サネジア「おかしい、急に紅茶が臭くなった」

オルディ「気にしないでねエリク、気にしてないから。どうぞ?」

エリク「……皆さんは、異種(いしゅ)ってどう思いますか」

オルディ「座れるね」

エリク「椅子だねぇ!」

フェン「異種ね」

サネジア「昔は、異種持ちに対して、魔女狩り的な事もあったけどな。気にも留めてねぇわ」

エリク「……それ、本気で言ってます?」

サネジア「建前で言ってると思うか?」

エリク「そう聞こえないからビックリしてるんです」

オルディ「どう思うとか言われても困っちゃうなー」

エリク「やっぱりタブーですかね、こういうの」

サネジア「じゃあこの家タブーだらけだな」

エリク「はい?」

フェン「僕、異種だけど」

エリク「えっ」

オルディ「俺も俺も! ついでにサネジアもね」

エリク「はぁあ!?」

サネジア「だから言ったろ、気にも留めてねぇって」

エリク「うわあ……そういう事ですか。マジですか」

オルディ「お前が引いてどうするのさ! 傷付くなぁ!」

エリク「引いてないですよ!」

フェン「で……異種に、何かされたの?」

エリク「いえ、その。ぼくも、異種でして」

フェン「はぁ」

エリク「だからあの……なんかされたって言うか、なんかしちゃった方、なんです」

オルディ「引くわぁ」

エリク「結構傷付く!!」

サネジア「そうか……なら、お前をウチに置く訳にはいかねぇな」

フェン「は?」

サネジア「自責の念だかなんだか知らねぇが、死にたくなる程の事をやった異種なんだろう」

フェン「サネジア」

サネジア「さぞかし、とんでもない事を仕出かしたんだろうな。追っ手から逃げてきたのか?」

エリク「っ」

サネジア「フェン。返してこい」

フェン「嫌だ」

サネジア「俺の話聞いてたか」

フェン「聞いてた」

サネジア「だったら分かるだろ」

フェン「嫌だ」

サネジア「……いい加減にしろよてめぇ」

オルディ「サネジア、フェン。まあ落ち着け」

サネジア「俺は落ち着いてる。……アホか、この家の平穏ぶっ壊すかも知れないんだぞ」

エリク「……」

サネジア「国は綺麗事ばっか言ってるけどな、差別も迫害もそこらじゅうに残ってる」

エリク「っ」

サネジア「事を起こしても、起こさなくても、目立ったらまず叩かれる」

エリク「やめて」

サネジア「お前ら全員身をもって知ってんだろ」

エリク「やめてってば!! ……ぼくやっぱり戻ります」

フェン「エリク?」

エリク「オルディ、紅茶美味しかった、ありがと」

オルディ「あ、あぁ」

エリク「サネジア、迷惑掛けてごめんなさい」

サネジア「ふん」

エリク「フェン」

フェン「行かせない」

エリク「まぁそう言わずにさ! こんなの図々しいよ! ね?」

フェン「そんな事ない」

エリク「止めてくれて嬉しかった」

フェン「……手、出して」

エリク「二度も手は取れないよ」

フェン「違う。チョコレート……これは一番のおすすめ」

エリク「……はは、大事に食べるよ。ありがとう」

フェン「それと」

エリク「キャラメル?」

フェン「それも違う。『影を潜め 光は逃げよ ひととき全てを隠されよ』」

サネジア「……ッ」

エリク「わぁ……呪文だ」

フェン「これで次の夜までは気配を消せる。頑張れば、見つからないよ」

サネジア「お前……フェン、そこまでやるか」

エリク「……ありがと、バイバイ」

フェン「またね、じゃないんだ」

エリク「……」



サネジア「っだぁあああ! もういい!」

フェン「まだ何か文句あるの」

サネジア「うるせぇ黙れ! 気配消してるんだったら! ここがバレる事もないだろうがよ!」

エリク「……サネジア?」

サネジア「そーれーにぃ? さっき消したのは気配だけ、姿形までは消えねぇよなぁ?」

オルディ「おぉー?」

サネジア「だから……はあ、もう知らん。みなまで言わせんな、クソ」

オルディ「良かったねぇエリク! ずうっとここに居て良いってさー!」

サネジア「ずっとは余計だ!」

エリク「シェアハウスですか! お部屋はどこです!?」

サネジア「調子乗んなよ! 寝て起きたら帰れ!!」

エリク「お部屋はあるんデスね!?」

サネジア「ある!」

エリク「あるんだ!」

サネジア「はぁ……オルディ、お前の隣だ。連れていけ」

エリク「なんか、連行されるみたい……」

オルディ「華麗にエスコートしちゃうぜぇ」

サネジア「明日になったらちゃんと帰れよ」

エリク「了解しまし……あ」

サネジア「何だよ」

エリク「あのですね」

サネジア「地下じゃなきゃ眠れない体質か?」

エリク「ぼくは地上が大好きです! いや、申し上げにくいんですが」

フェン「あ、帰る所ない、って聞いたけど」

サネジア「……なんつった?」

エリク「覚悟の証と思って、住んでた家燃やしてきました!!」

サネジア「なんつー奴餌付けしたんだ馬鹿フェン!!」

エリク「ごめんなさい!!」

サネジア「お前聞いてたんなら早く言え!」

フェン「言ったらすんなり置いてくれたの?」

サネジア「……うるせぇよ」

フェン「来る途中そう聞いたの、忘れてた」

エリク「フェンってすごく聞き上手ですよね!」

サネジア「そこまで語り合って何故名前を聞かない!?」

オルディ「言わせんなよサネジア……こいつらの熱い絆には、名前なんかいらないって事さ!」

サネジア「名前も知らない奴との絆なんて、たかが知れてるわ」

オルディ「あーそれもそうだな」

サネジア「もうちょっと貫いてくれ……なんか、本当どうでも良くなったわ。腹減った……」

オルディ「ああ!! よくぞ言ってくれたな! フェン、よく聞け、今日の晩メシはスペシャリティストだ……最高のシチューなんだぞ」

フェン「すぺしゃりてぃすと」

オルディ「シンプルで、素朴で、香ばしいパンが付いてる!」

フェン「あー、おいしそう」

オルディ「だろぅ?」

フェン「でもそれ、別にシチューがスペシャルな訳じゃないよね」

オルディ「俺が作るシチューはいつも最高だろがよ! よーしあっためて来る! 手洗っとけよ! あと寝るな!」

フェン「言われなかったら寝てたかも」

オルディ「サネジア! 皿洗いは今日お前だからなー!」

サネジア「分かってるっつの。……えっと?」

エリク「は、ハイ!」

サネジア「エリク、だったな」

エリク「そうでございマス!」

サネジア「……シチュー。絶対美味いから残さず食え。あと、今日からお前が皿洗い係りな」

エリク「了解しました」

サネジア「……即答かよもうちょっと嫌がれよ、死ね」

エリク「シャレになんない! ふふふ!」

サネジア「それと、今日『から』な」

エリク「……それって」

サネジア「覚悟決めたんだろ。燃えカスしかないような場所にはもう帰るな。
     何があったかは大体察しが付く。ここにいたら良い……次を見つけるまでだがな」

エリク「サネジアって、優しいんだね」

サネジア「シチューが飲めない口が欲しいか?」

エリク「褒めたのに!!」

サネジア「ほら手どけろ、皿が来るぞ」

エリク「あ、良い匂い!」





======


フェンM「半分海に沈む身体が見えて、凍える声が聞こえた。忌み嫌われる力も、捨てたもんじゃない」

エリクM「家に放った炎とは違う、柔らかな灯り。恩人たちは、ぼくにそれを与えてくれた」

オルディM「美味しいごはんは世界を救う。そのごはんは、俺が作る」



フェン「[異種のごちそう 眠たがり命を拾う]」



サネジアM「捨てられた犬みたいなこいつが、幸せそうに床で寝るまで、あと1時間」











20150216
加筆修正:20151219、20170117


[山積台本]


<ぱちぱち>



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あとがき

よく笑って、よく食べて、よく寝る。
基本的なこと、なかなかできないんですよね。


ご感想、お問い合わせなどございましたら、こちらの 投書箱 からどうぞ。



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