[異種のごちそう 飲めや歌えや春の嵐]
         
         


登場人物
◆エリク・リリック(エリク) 歌うことで周囲に影響を与えてしまう異種。愉快、生真面目、無邪気。
◆サネジア・サムサラ(サネジア) 病気をする以外のことでは死なない異種。心配性、毒舌、裏返しの信頼。
◆オルディ・ラビティ(オルディ) 重力の影響を受けることができない異種。明るい、煩い、馬鹿ではない。
◆フェン・フィール(フェン) 鋭い五感を持つ異種。朴訥、気だるい、布団が友達。


作品に関する 利用規約 をご覧ください。
このお話の舞台となる世界については 異種のごちそうの世界  に少しまとめております。

※設定上、登場人物は全員男性ですが、性別や一人称などに関し、変更していただいても構いません!
変更を加えた上で、生放送などで演じてくださる場合は、その旨を明記してください。

※今回、物語の中でエリクが「シャボン玉(日本の童謡)」を歌います。
すべての歌詞が替え歌です。上演の際には、一度目を通していただいた方がよいかと思います!
元の歌詞………『シャボン玉飛んだ』『屋根まで飛んだ』『屋根まで飛んで』『こわれて消えた』『風、風、吹くな』『シャボン玉飛ばそ』
今回の歌詞……『そらを およぎし』『こえのみちびき』『きらめくうろこ』『かがやくこころ』『うみよりいでよ』『ともに うたわん』


所要時間目安/55~60分

配役(0:0:4)
♂♀エリク:
♂♀サネジア:
♂♀オルディ:
♂♀フェン:







フェン「……んー……」(机に突っ伏してうつらうつらしている)

エリク「フェン?」

フェン「……」

エリク「眠いね」

フェン「うん……そう」

エリク「ふふ。お昼下がりだよ?」

オルディ「いつものことだろぉー?」

エリク「起きたのはー?」

オルディ「お昼ー!」

サネジア「叫ぶなうるせえ」

フェン「仕事は、したから……」

エリク「ベッドに行かなくていいの?」

フェン「……におい」

エリク「うん?」

フェン「はるのにおいが」

エリク「……そうだね。だって、」

オルディ「おういシュガテール、もうお庭がまるで植物園、ふがっ!?」(口に何かを詰め込まれる)

エリク「ぶふっ!」(噴き出す)

オルディ「げっほ! ぺっぺっ! ……おいお前ぇ!?」

エリク「ふふふっ。花の神さまが、あんなに楽しそうにしてるから」

オルディ「口に! 花びらの! まぼろしを! 突っ込んじゃいけないの!」

フェン「いいにおい……」

エリク「ずっと笑ってるね、シュガテール」

フェン「はるだね」

エリク「春だねえ」

オルディ「お仕置きだぞ! ちょっとそこに居なさい! よいしょ!」(宣言して上着を羽織る)

サネジア「ああよかった」

オルディ「……ああん! 重たい服ってやっぱり大っ嫌ぁい!」(庭へ走って行く)

サネジア「騒がしいのがどっか行った」

フェン「……くちが、ぱちぱちしてる……」

エリク「……へ?」

フェン「……」

エリク「……寝言?」

フェン「春は……まほうが……みえる」

エリク「……んん?」

フェン「ぼくには、みえる……」

エリク「どういう事……?」

フェン「……」

エリク「……ふふ。寝言かなあ」

オルディ「飛ぶのは卑怯だって言ったよなぁーっ!?」(遠くで)

サネジア「遠いってのに五月蝿えなあ。『チャック』」

オルディ「んぐーっ!?」(唇がくっつく)

エリク「んーっ(伸びをする)。春だね!」

サネジア「頭のおかしいやつが増えたなって?」

エリク「そうは言ってないよ!」

サネジア「なるほど。頭のおかしいのは、いつもの事だな」

エリク「そうも言ってないよ!?」

サネジア「ふん」

エリク「もう……」

サネジア「……確かに。今日は空気が濃いな」

エリク「え?」

サネジア「こいつが言ったろ」

エリク「寝言?」

サネジア「ああ」

エリク「濃い、って、どういう……」

サネジア「そうだな。……授業だ、エリク」

エリク「あ、はい!」

サネジア「例えば、呪文を使うとする」

エリク「うん」

サネジア「ただし、呪文からは一度離れろ。エリク、魔法において、魔石とはなんだ」

エリク「魔石……は、魔力のいどころ。漂うべきものを、抱いているもの」

サネジア「では、漂うべきもの、とはなんだ」

エリク「……ちから。魔力と、……ええっと」

サネジア「人が、魔力と、名付けているもの」

エリク「……そうだ。ぼくたちが、魔力と呼んでいるもの」

サネジア「もう一度。漂うもの、とはなんだ」

エリク「漂うものは、魔力。世界に力を貸すもの」

サネジア「では、呪文とはなんだ」

エリク「お願い事。……問いかけ。漂う力を、借りる言葉」

サネジア「戻るぞ。魔法において、空気が濃いとは、どういう意味だ?」

エリク「……漂う力が、多いって事?」

サネジア「そうだ」

エリク「……できた!」

サネジア「……例えば、呪文を使うとする」

エリク「うん」

オルディ「んんんんー! んーんー!」(さねじあー! んーんー!)

サネジア「『許す』」

オルディ「ぶはっ!!」(口が解ける)

エリク「あっ、取れた!」

サネジア「さっき、俺はこの騒がしいクソ料理人の口を永遠に塞いでやりたい、と強く願った」

エリク「あっはっは!」

オルディ「あー、あいうえおぉー……おいサネジア! 永遠にこのままかと思ったじゃんよ!」

サネジア「切なる願いだ」

エリク「それでさっきの、『チャック』、」

オルディ「んむん!」(再び唇がくっつく)

エリク「……あ、えっ?」

サネジア「ああ、都合がいい、手間が省けた」

オルディ「んーんーんー!?」(えーりーくー!?)

サネジア「力が濃いってのは、こういう事だ」

エリク「え、ええと、つまり」

サネジア「呪文とはなんだ。空気が濃いとは?」

エリク「……魔力が多いって事。お願いに応えてくれる力が、たくさんあるって事なんだ」

サネジア「その通り」

エリク「……春ってすごい!」

オルディ「ふーん、ふーん」(鼻で一生懸命息をしている)

エリク「あっ、ごめんオルディ! じゃあ……許す!」

オルディ「……ふーん!」(ひときわ大きい鼻息)

エリク「あれ?」

サネジア「そう単純じゃあねえんだなぁ」

エリク「待ってオルディ、……口はひらく! ……だめだ、ううん、とけろ!」

サネジア「おい、危ねえな。『自由を』」

オルディ「んばっはぁー!」(解ける)

サネジア「……お願いの仕方ってのがあんだよ」

エリク「ああ……もっと勉強します……」

オルディ「はぁ、はぁ……あーのねぇえ! 俺っちゃんを勉強に使うの禁止ー!」

サネジア「実践だ」

オルディ「それも禁止っ!」

サネジア「……実験」

オルディ「禁止ぃ!」

サネジア「いい的(まと)」

オルディ「なーんて言ったぁ!?」

サネジア「……ふふ。そう笑ってやるな、シュガテール」(オルディの肩越し。シュガテールがけらけら笑っている)

オルディ「お前ーーっ!」(再び追いかける)

エリク「あっはは!」

サネジア「悪くない眺めだ」

エリク「春って騒がしい!」

フェン「……ふふ」

エリク「あれ、フェン。起きた?」

フェン「春は騒がしいから」

エリク「っふふ」

フェン「目が覚めたよ。少し前に」


=====



オルディ「チャオ。コーヒーだよーん」

エリク「ありがとう」

オルディ「あと、はぁい、クッキーも付けちゃう!」

エリク「クッキー! いただきます!」

オルディ「……やい、イタズラお花! そんなに動いたら疲れるぞ!」

サネジア「あのラナンキュラス、無尽蔵かよ」

オルディ「俺様が直々に淹れてやった、スーペリアル奇妙な匂いのお茶を飲みなさい!」(庭先へ)

サネジア「庭がいよいよ植物園だぞ」

フェン「シュガテールには、いちばん良い季節なんだろうね」

サネジア「まあな」

エリク「あとで疲れないといいけど……」

サネジア「ガキの心配かよ」

エリク「へへ」

オルディ「ふう! やあっと静かになった!」

サネジア「子守りじゃねえかよ」

オルディ「んふふ。可愛いでしょ」

エリク「……あ、クッキーおいしい」

フェン「(皿を引き寄せてひとつ食べる)……うま」

サネジア「くれ」

フェン「ん」(皿をサネジアに少し寄せる)

サネジア「(食べる)……いちごジャムだな」

フェン「もっと豊かな感想はないの」

サネジア「『うま』、で済ませたやつに言われたくねぇ」

フェン「僕の一言には、沢山詰まってるから」

サネジア「ほう。言ってみろ」

フェン「そうだね。そもそもサイズが良い。指二本でつまめる手軽さは、コーヒーを飲む方の手も軽やかにしてくれる」

サネジア「それで?」

フェン「さすが、コーヒーショップが出してるだけはあると思うね。店の気遣いが感じられる」

サネジア「……で?」

フェン「それからその気軽なサイズの生地は、さくさくして更に軽やかに、口どけもよく、しかし口に入れた瞬間の香りが」

サネジア「ああー、もういい」

フェン「これからなのに」

サネジア「俺が間違ってた」

エリク「甘いもの大王……!」

オルディ「王よ! なんと美しく中身のない演説!」

サネジア「お前なあ。その調子で論文の一本でも書けよ」

フェン「口とペンは違う」

サネジア「そんぐらい言えりゃ、適当な研究者なら騙せるんだ」

エリク「どういう意味!?」

フェン「……今度ね」

サネジア「聞いたからな」

フェン「……こんど」

オルディ「ふふん。ねえ、俺にも頂戴?」

サネジア「ああ」

オルディ「……んん〜、ここのは何買っても大当たり」

フェン「オルディ。あんなに楽しそうにしてると、フェイリスも呼びたくなる」

オルディ「んお? 演奏会でもするぅ?」

フェン「あいつの声は合奏には向かない」

オルディ「独唱気質なの?」

フェン「……挑戦的というか」

オルディ「んふふ」

サネジア「呼べばいい」

フェン「……呼ぼうかな」

エリク「ぼくも会いたいなあ」

サネジア「……石種の人魚か」

エリク「うん。メロウライト」

サネジア「呼べばいいじゃねえか」

エリク「呼び方がわからない!」

サネジア「詰めが甘い」

エリク「ハイ! ……フェンは、フェイリスを呼ぶ時、呪文を唱えてるよね?」

フェン「そうだね。合図の呪文がある」

エリク「ううん……ねえ、オルディは?」

オルディ「なあに。シュガテールの呼び方?」

エリク「そう。今朝、どうやってシュガテールを呼んだの?」

オルディ「そりゃもうエリクちゃん、簡単さ!」

エリク「本当! 教えて!」

オルディ「『シュガテーーーール!』」

エリク「……」

サネジア「エリク」

エリク「ハイ」

サネジア「お前の間違いだ。解るな?」

エリク「エエ」

フェン「100本あみだくじ……」

オルディ「なぁんだよぅ。本当のことだぞ?」

サネジア「ラナンキュラスと、そう約束したのか?」

オルディ「いんや?」

サネジア「……近くにいそうな気配がしたのか」

オルディ「呼びたくなっちゃったのよん」

サネジア「……エリク」

エリク「ハイ」

オルディ「せーんせぇ、あんまり生徒をいじめるんじゃないぞぉ」

サネジア「黙れ、誰のせいだクソあみだくじ。毛という毛を蔦にされたいか」

オルディ「お風呂に入るのがかわいそうになるから嫌!」

サネジア「はあぁー……」(ため息)

エリク「パートナーって、むつかしい……」

サネジア「人魚……石種の人魚だろう。呼び方か……家に本はないな……」(ぶつぶつ)

フェン「エリクも呼んでみたら?」

エリク「どうやって?」

フェン「そのままの意味。オルディみたいに、名前を呼ぶ」

エリク「ええ。それで来てくれたら、びっくりだけど……」

オルディ「エリクちゃん、ほら、せーの!」

エリク「せ、せーの?」

オルディ「豆の木よー!」

フェン「ふっ」(思わず笑う)

エリク「ちょっと! 前科の話はナシ!!」

フェン「ふふ」

エリク「びっくりしたよ!?」

オルディ「んでも、分からないぞぅ?」

フェン「今日、先生に教わったでしょ」

エリク「……ええっと。春は空気が濃い、の話?」

フェン「そう。もしかしたら、届けてくれるかも」

エリク「たしかに……って、あれ。フェン、聞いてたの!」

フェン「途中からね」

エリク「なんか、ちょっと恥ずかしい」

フェン「よく出来てたよ」

エリク「そう?」

サネジア「……海、行くか」

エリク「えっ」

サネジア「典型例を調べ始めるには遅すぎるからな。どうせ試すなら、確率が高い方が良いだろう」

フェン「いいね」

エリク「サネジア」

サネジア「準備しろ。行くぞ」(立ち上がる)

エリク「……わあ。ありがとうサネジア!」

サネジア「うるせ。おら立て」

エリク「はあい!」(テーブルを離れ支度を始める)

サネジア「ああ。晩には帰る。飯よろしく」

オルディ「んっふふ。任せたまえよ」

サネジア「フェン、呼ぶなら好きにしろ。ただし珍しい花はサンプル。三本ずつ」

フェン「了解。行ってらっしゃい」

エリク「……うわあ! やったーっ!」(遠くで)

サネジア「『チャック』!」

エリク「んっぐ!! ……ん! んんんー!」(行ってきまーす)


(二人、どたばたと出て行く)


オルディ「嵐が去ったねぇ」

フェン「オルディに言われたくないと思う」

オルディ「なんだとぅ?」

フェン「……さて。僕らも始めようか」

オルディ「そうねん。晩ご飯は人数増えてるかもしんないし!」

フェン「気合が入るね、シェフ」

オルディ「もちろんだとも!」

フェン「オルディ。シュガテールと、もっと外に出たい?」

オルディ「うん?」

フェン「庭に出るの、上着、重くて大変でしょ。家の呪文を、外まで伸ばしてみようかと思って」

オルディ「……んふふ。いいねえ、よろしく頼んだよん!」

フェン「わかった。……フェイリスが来たら呼ぶよ」

オルディ「んん! 会うの、いつぶりかしら!」

フェン「先生を助けた時以来かな」

オルディ「わぁお。……『俺はピンチだ。だから日記を書くことに決めたぁ』」(サネジアの真似をして)

フェン「っふふ」

オルディ「似てなぁい」

フェン「……俺はピンチだ、とか言って。ふふふ」

オルディ「んふふ」


=====


(海にて。エリクとサネジア)


サネジア「……来ねぇな」

エリク「来ないね……やっぱり、名前を呼ぶだけじゃだめなのかなぁ」

サネジア「名前を与えることも、与えられた名前にも、それだけで力はあるわけだが……さすがに厳しいか」

エリク「……もう会えないのかなあ」

サネジア「それはない」

エリク「……どうして?」

サネジア「今言ったが、まず、名前をつけるという行為。それ自体は簡単な事だ。だが、契約に当たる」

エリク「契約」

サネジア「……授業だ」

エリク「はい!」

サネジア「お前は、誰か……例えば、人魚でもいい。そいつに俺のことを説明する時、どうする」

エリク「……サネジア。サネジア・サムサラ。先生」

サネジア「先生は余計だが」

エリク「ふふ」

サネジア「まずそう言うよな」

エリク「うん」

サネジア「想像しろ。もしお前が、俺の名前を知らなかったら、どうする」

エリク「……んー。一緒に暮らしてる。魔法のこととか、本の読み方とか、教えてくれる人」

サネジア「そうだ。なんとかかんとかの『人』だ」

エリク「そうだね」

サネジア「もっと想像しろ。お前は人魚に俺のことを教える。その人魚が、初めてウチの三人を見た時、どれが俺なのか、判断できるか」

エリク「……この人かな、とは思うかもしれないけど」

サネジア「判らないよな」

エリク「うん。みんな人だから」

サネジア「厳密に言えば複雑になるが……名前の力が解るか」

エリク「わかる気がする。……なんだろう、ええっと、」

サネジア「……」

エリク「どこかの誰かじゃなくて、もっとしっかりする、っていうか。呼び合えば、答えがわかる」

サネジア「……良い線だ」

エリク「やった」

サネジア「今、この海岸に、世界中の人魚が集まったとする……」

エリク「……見つけられる。ぼくには判る。メロウライトも、きっとわかってくれる」

サネジア「……二度と会えないと思うか?」

エリク「んーん、思わない!」

サネジア「だろ」

エリク「すごい、すごい! 不安が吹き飛んだ!」

サネジア「そうかい」

エリク「でも、じゃあ、どうして来てくれないんだろう」

サネジア「考えられる理由はいくつかある。呼ぶのが聞こえていないとか、聞こえているが動けないとか。だが、まず初歩の初歩がある」

エリク「どんなこと?」

サネジア「呼び方が違う、だ」

エリク「……、そうだ! 『お願いの仕方ってのがあんだよ』だ!」

サネジア「……おお。そこに繋がるか」

エリク「サネジアってすごい!」

サネジア「っふ、いや、そりゃ偶然だ、流石に」

エリク「ふふふ。あの時、何を言っても、オルディの口が引っ付いたままだったんだ」

サネジア「可哀想にな」

エリク「最初にやったのは先生!」

サネジア「なんの事だか。俺はちゃんと解いたろう」

エリク「……気持ちは、解いてほしかったんだけど。言い方が違うんだ……」

サネジア「その『言い方』を整えたものが、呪文だ。聞いて貰いやすい願い方、とも言える」

エリク「なるほど……」

サネジア「まあ、それはさておき。お前の人魚は、名前を呼んでも来ないらしい」

エリク「……呪文を、考えないといけない?」

サネジア「そうなるな」

エリク「うげえ……苦手!」

サネジア「なにがうげぇだ。克服しろ」

エリク「単純明快っ!」

サネジア「……何かヒントがあるはずだ。呪文を作るにしても、糸口が必要だからな」

エリク「そうなんだ。ヒント、ヒントかあ……」

サネジア「初めて会った時を思い出してみろ。ぱっと思いつく何かがあるか」

エリク「うーん……フェンが火をおこそうとして、とんでもない大きさの炎の柱が出来て」

サネジア「あいつ後で叩き直してやる」

エリク「しまった! 内緒だったのに!」

サネジア「小賢しい真似してんじゃねえ!」

エリク「フェンごめん!」

サネジア「俺に謝れ!」

エリク「ああ!」

サネジア「……続けろ」

エリク「うう。それで、うん、メロウライトに会った。僕にはメロウの声が聞こえなくて、フェンが色々話してくれて、」

サネジア「ああ」

エリク「それで、嬉しかったんだ……メロウライトは、僕の歌がもっと聞きたい、って言ってくれた」

サネジア「……それじゃねえか」

エリク「へ?」

サネジア「歌だろがよ。人魚が聴きたいのは」

エリク「……そうだーっ!」

サネジア「お前」

エリク「僕の歌ーっ!」

サネジア「お前なあ……ああ……まあいいや」

エリク「歌を、歌ってみたらいいのかな!」

サネジア「やってみろ」

エリク「……ほんとに、いい?」

サネジア「いい。砂でも海水でもひっくり返せ」

エリク「へへっ。ありがとう。……そうだなあ、じゃあ、あれがいいな」

サネジア「何だ」

エリク「この間大変なことになった歌のリベンジ!」

サネジア「……ああー……台所ひっくり返した時の」

エリク「しゃぼん玉の歌!」

サネジア「……大丈夫かぁ……?」(独り言。自分に問う)

エリク「もうちょっと、加減して歌わないと……」

サネジア「……確認は、もう要らんな」

エリク「ふふっ、うん。忘れてないよ。……ここを、こうしよう……」(歌詞を考えている)

サネジア「……来い」

エリク「よし。……そーらーをーおーよーぎーしー……こーえーのーみーちーびーきー……」(そらを泳ぎし 声のみちびき)

サネジア「……」

エリク「『きらめく鱗 かがやく心 海よりいでよ 共に歌わ』ー、うわっ!」(歌い終わる直前。『共に歌わん』)


(メロウライト、無数のシャボン玉の中に現れる)


サネジア「……花丸をやろう」

エリク「……ああ! こんにちは! 来てくれたんだね!」

サネジア「……このシャボン玉の数。……どうやって消すか……」

エリク「会いたかったんだ……! ねえ、サネジアのこと覚えてる?」

サネジア「……覚えて……? ああ、そういや、」

エリク「うん。あの時、一緒に見つけてくれたんだ」

サネジア「……そうか……世話になったな。改めて……メロウライト。サネジアだ、よろしく頼む」




オルディ「おー! 帰って来たなー!」

エリク「オルディ、ただいま!」

オルディ「おかえり、髪にシャボン玉付けたエリクちゃん」

エリク「えっ! どこ?」

サネジア「遅くなったか」

オルディ「いんやぁ、良い時間よ」

サネジア「そうか。……エリク、もっと上だ」

エリク「ああ! うぅー、っと(髪をぐしゃぐしゃにする)。取れた?」

サネジア「お前はそれで満足か?」

オルディ「ぼさぼさじゃんよ。豪快ちゃんなんだから。……んん! 無事に会えたみたいね!」

エリク「あ、うん!」

オルディ「ごきげんよう、メロウライト。宴の会場へようこそ」

サネジア「なにが宴だ、……やけに豪華だな」

エリク「わーっ! ごちそうがいっぱい!」

オルディ「んっふ。今夜は賑やかになるわぁーと思って、たくさん作ったんだぞ!」

エリク「あはは。食べるのは、ぼくたちだけなのに!」

オルディ「咲きに咲いた花でも愛でながら、お庭でご飯! いいじゃないのさ」

エリク「楽しそう! これはなあに?」

オルディ「チーズグラタンちゃん! そっちはガーリックチキンでしょぉ、んでブロッコリーとマッシュルームのオリーブオイル……うわーん!!」

エリク「いっ!? なーに!?」

オルディ「俺っちゃんバゲット火にかけたまま忘れてるぅん!」

エリク「うそぉ!?」

オルディ「超絶美的に切りそろえたのにぃーっ!」(ばたばたと家へ)

サネジア「……珍しい。献立のことであいつが忘れるなんて」

エリク「きっとよっぽど張り切ったんだよ」

サネジア「大皿が何皿あるんだ。……まあ、あっちは、至極いつも通りだがな」

エリク「ああ、フェン、フェイリスの下に居たんだ。……本当だぁ、また寝てる」

サネジア「ったく、どいつもこいつも。……おいメロウライト、くすくす笑ってんじゃねえ。……身がもたねえぞ」

エリク「ああー、お腹減った!」

サネジア「そうだな。飯に……する前に」

エリク「する前に……フェイリスに抱きつく!」

サネジア「その前にだ」

エリク「うん?」

サネジア「あの寝坊助火柱ネズミを叩き起こせ」

エリク「……あーっ! フェンごめん! これには訳がーっ!」


=====



オルディ「サネジア」

サネジア「ん」

オルディ「エリクちゃん、楽しそうね」

サネジア「ああ」

オルディ「今日は、この家に来てから一番賑やかな日なんじゃなあい?」

サネジア「そうかもな」

オルディ「あいつ、なにしてんだろ。さっきからずうっと」

サネジア「石種一匹と、薬種二匹に挟まれて、喋ってるな」

オルディ「おもしろ写真が撮れそうだわぁ。片手にチキン、反対の手は、水入りバケツに突っ込んで」

サネジア「人魚の声が、よく聞こえる気がするんだと」

オルディ「ふうん?」

サネジア「さっき一回水をぶちまけたところだ」

オルディ「ちょっと見ないうちに、どうしてまた」

サネジア「恐らく、花を踏まないように歩いて転んだ」

オルディ「んっふ!」

サネジア「花だらけなのにな。……運動音痴じゃねえんだろう」

オルディ「そうね。俺っちゃんの特別護身術レッスンは順調よ!」

サネジア「……の割に、よく転ぶよなあいつ」

オルディ「足に音符が絡まっちゃうんじゃないの?」

サネジア「なんだそりゃ」

オルディ「んふん。ねえサネジアせんせ。たまには、こんなの飲まない?」(お酒を差し出す)

サネジア「あ? ……ああ、悪くない」(受け取る)

オルディ「んふふふ〜」

サネジア「お前は、もう飲んでるのか」

オルディ「まさか。酔ってるように見えるぅ?」

サネジア「お前は常に飲んだようなテンションだからなぁ」

オルディ「奇遇だねえ」

サネジア「何がだ」

オルディ「俺様ちゃんもいーっつも、お前さんの眉間のシワが、飲んだ時に癖の悪くなるおじさまに似てるなぁって思ってたの」

サネジア「眉間にコルクを差し込まれたいか」

オルディ「やーだねん。抜いたらワインが出るようになっちゃうじゃないのさ」

サネジア「ふん」

フェン「何飲んでるの」(居間から現れる)

オルディ「またまた。フェンってば、判ってるくせに!」

フェン「まあね。……僕にも」

オルディ「あいよん。(食器棚に向かって)ヘイカモン! とっておきのグラース? うおっ」

フェン「っと(グラスをキャッチする)。……危ない」

オルディ「足元が狂っちゃった」

サネジア「手元が狂えよ」

フェン「酔ってるんじゃないの」

オルディ「お前さんよりは強いですぅー。……はいどうぞ。かんぱい」

フェン「かんぱい」

オルディ「今日はこの家でいっとう賑やかだね、って話してたのよ」

フェン「そうだね。昔と大違いだ」

オルディ「んん。なぁんか懐かしいやね。三人ぽっちだったの」

フェン「……」(一口飲む)

オルディ「それがもう、どうよ。広すぎて持て余してた庭が、花でいっぱいだぞ?」

フェン「……ふふ。少し前から、花はいっぱいだったでしょ」

オルディ「俺っちとシュガテールが約束した時?」

フェン「そう」

オルディ「その前はぁ、シュガテールが初めて来た時」

フェン「ジャック・オ・ランタンも咲いた」

オルディ「んん」

フェン「豆の木も」

オルディ「んふふ」

フェン「フェイリスの時も、少し咲いた」

オルディ「ちっちゃなお花だったねえ」

フェン「すぐ枯れちゃったけどね」

オルディ「フェイリスのやつ、すくすく大きくなったじゃん?」

フェン「そう?」

オルディ「ピーピーのヒナっこちゃんだったのがさぁ、すっかり自信たっぷり」

フェン「おかげさまで。よく食べるしね」

エリク「フェーンー!」(庭から)

フェン「何ー」

エリク「フェイリスがご飯食べたそうだよー!」

フェン「気にしないでー。……あいつ、エリクならくれると思ってるんだ」

エリク「あとー! サネジアー!」

サネジア「ああ? なんだ」

エリク「メロウ、食べ物が何か知らなかったー!」

フェン「さすが石種」

サネジア「ああ、そりゃめでたいなぁ」

フェン「適当過ぎない?」

エリク「そうだねぇ!」

フェン「……エリクは先に飲んでたの」

サネジア「シラフであれだ」

フェン「ちゃんと言葉教えてる?」

サネジア「色々失礼だな」

オルディ「エリクちゃーん! ちょっとこっちおいで! 乾杯だ乾杯!」

フェン「あ。飲ませる気だ」

サネジア「好きにさせろ」

フェン「エリクが飲むの、あんまり見た事ない。……楽しみ」

サネジア「悪い大人の顔だ」

フェン「おや。誰に似たんでしょうね」


=====



エリク「オルディ」

オルディ「なーにー?」

エリク「これも美味しかった!」

オルディ「甘いでしょ。もう一杯飲む?」

エリク「うん、じゃあ飲む!」

オルディ「これとぉ、氷をー、もうちょっと。……お前さん、意外と強いよねぇ」

エリク「そうかなぁ」

オルディ「俺っちゃん結構いい気分〜」

エリク「ふふっ。そんなにふにゃふにゃには見えないけど」

オルディ「見えないように、訓練するのよん」

エリク「そうなんだ」

オルディ「弱くもないけどねぇ」

エリク「……オルディが教えてくれる、身体の使い方とかさ。覚えるのって、大変だった?」

オルディ「んー? そうでもないよん。楽しかったくらい」

エリク「サネジアとは違うけど、色んなこと知ってるなあって思うよ」

オルディ「んふふ。この家に来た時なんか、なぁんにも知らなかった!」

エリク「そうなの?」

オルディ「そうとも。あとねぇ、エリクちゃんが知らなさすぎるだけ」

エリク「あはは!」

オルディ「そうでしょぉ、メロウライトちゃん?」

エリク「……ん、なあに、シュガテール。……お花? くれるの?」

オルディ「よかったねえ」

エリク「ありがとう! こんなに大きなラナンキュラス、見たことないよ! ねえ、君も見てメロウ。いい匂いがするよ」

オルディ「……あの時は、エリクがお花をくれたねえ。シュガテール、お前ってばそういうとこ、エリクちゃんに似てるの。……そーれ、『ぴかぴかぽーん』!」

エリク「わっ! 花が光った!」

オルディ「メロウ、びっくりし過ぎちゃん」

エリク「うふふ。ぼくもびっくりした!」

オルディ「……シュガ、お前さんまで目を丸くしてどうするのよ」

エリク「あっはっは!」

オルディ「んふ。平和な春の夜である!」

エリク「うん! ……そう、だけど……」

サネジア「……なんだ。先に手ェ出したのはお前だろが」

フェン「……『セッテ・フリンテ』」

サネジア「……」

フェン「『フリッタラ・フリンツル』!」

サネジア「『風鳴る喉は潰れ沈む』!」

フェン「……。……空気の遮断と、魔石の寸断」

サネジア「解ってんじゃねえか」

フェン「よくそう遠慮なく魔石をすり潰せるよね」

サネジア「『かげひかり 糧よ浮け』……」(小さな魔石が地中から浮いてくる)

フェン「……ラナンキュラスに隠したんだけど」

サネジア「このクズ石が、何だって?」

フェン「いつばれた」

サネジア「お前が第二節と思しき呪文を唱えた時だ」

フェン「どうやって」

サネジア「魔石の中で力を動かすやり方は、石の中で完結するゆえに魔力の移動はない。代わりに、石そのものがぶれる」

フェン「……」

サネジア「魔力の置かれた点自体が揺れた場合、魔法陣よりも魔石の存在が疑わしい。ならば大元を叩きつつ、漏れた力が暴発しないよう対処する」

フェン「……」

サネジア「やり直せ、若輩が」

フェン「……ちっ」

エリク「……うん。平和じゃない人たちも、二人いる……」

オルディ「相変わらず好きだねぇ。フェンのやつ、いっつもムキになるんだから」

エリク「サネジア先生も、受けちゃうんだもん……だ、大丈夫かな」

オルディ「大丈夫よん。師匠と弟子のじゃれ合いさ」

エリク「それは、二人は大丈夫だろうけど……庭とか家とか!」

オルディ「んまぁ、どっちもグラス片手に酔っぱちゃんだと思うとねぇ」

エリク「心配だなあ……」

フェン「……『ペリステリア・エクセスティ・エクスロー』」

サネジア「とうとうご自慢の雛鳥までお出ましか」

フェン「生まれたてだと思ってると、痛い目見る」

サネジア「……なあ、フェイリス。主人の主人に歯向かうってのは、どういう気分だ?」

フェン「聞かなくていいよ。『カイオー・チャッカ』」

サネジア「っ、『みずのかげ』!」

フェン「『チャッカ』!」

サネジア「ちぃっ!」

エリク「ねえ! 家燃えたりしない!?」

オルディ「戦況激化ってる!」

エリク「激化ってるよ!!」

オルディ「んん、そうだ、いよいよこっちに来そうになったら」

エリク「うんっ」

オルディ「エリクちゃんも行っておいで!」

エリク「どうしてそうなるのぉ!?」

オルディ「頑張って二人を止めるんだ!」

エリク「余計駄目になる気がするよ!?」

オルディ「ふふん。んーん、お前さんなら止められる」

エリク「自信ナーシ!」

オルディ「ほら、最近俺様が教えてるでしょ。こういう非常に非情な事態の場合の立ち回りを!」

エリク「非常事態だけども! 味方同士の魔法合戦なんて聞いてないよぉ!」

フェン「……やっと、いっぱつ」

サネジア「……人の呪文パクりやがって」

フェン「もういっぱつ……んっく(一杯呷る)。っひひ」

オルディ「うわ! あいつ飲みやがった!」

エリク「変な笑い方してるぅ!」

オルディ「戦況悪化!」

サネジア「酔拳かよ。……まあ、悪くねぇなぁ、ん(グラスを傾ける)、っふは」

オルディ「もーっと悪化!」

エリク「悪化っ!」

オルディ「エリクちゃん、さあ行くんだ!」

エリク「何が出来るっていうの!?」

オルディ「ちゃぁんと思い出せ? 天下のオルディさまがお前に伝授してるのは、敵の倒し方じゃあないだろぅ?」

エリク「……止め方だけど」

オルディ「『よく聞いて、よく見て』?」

エリク「『よく声に出しなさい』、……だけど!」

オルディ「ほら、エリク二等兵お得意の長物なら、ちょうど手の届く所にある」

エリク「ええ……デッキブラシぃ……?」

オルディ「それに今、お前には立派なお使い! メロウライトがいるじゃないか!」

エリク「……メロウ……」

オルディ「いいかぁメロウちゃん。エリクの言葉をよく聞くんだ。こいつがしたいと思ったことを、手伝ってあげるの」

エリク「……君は、こんなの初めてかもしれないけど……できる?」

オルディ「極め付けに! 最後の砦は! シュガテールと、このオルディちゃんだぞ!
     フェンの馬鹿も、サネジアの馬鹿も、もちろんお前、エリクちゃんも! 最後の最後は止めたげる」

エリク「……」

オルディ「んふ。ねえエリク」

エリク「なに?」

オルディ「ほんとはちょっと、やってみたいでしょ?」

エリク「……否定はしない!」

オルディ「ほうら、イケイケエリク! 今日は宴だぁ!」

エリク「っ、本当に良いんだね!」

オルディ「実戦あるのみじゃー!」

エリク「メロウライト、ぼく、これから二人を止める。君は無理しないでね!」

オルディ「あとのことは任せろぉ!」

エリク「ふう。……構え。……3……2……1、ええーい、やあっ!!」(デッキブラシを構えて走り、フェンの前に割り込む)

フェン「っ、なに」

エリク「ひるんだ、踏み込まないで、ひるがえる!」(サネジアに向きなおる)

サネジア「ほう」

エリク「3、2、1、ゴー!」(サネジアに突っ込む)

フェン「えりく?」

サネジア「……どっちの増援でも、なさそうだなぁ?」(かわす)

エリク「だーあっ!」(横に薙ぐ)

サネジア「っは、面白い! 『影はひかり 光はかげり』……」

エリク「っ、呪文! 下がる!」(距離を取る)

フェン「『ニードラ・キャンデリル』!」

サネジア「『チャッカ』。……これが見本だ、焼き付けろ、弟子野郎」

フェン「いつも見てます、ふぁんです、お師匠サマ」

サネジア「っはは。上等。『影よ 呼び声に答えし牙を運びたまえ 光よ 名にふさわしきふたつの瞳を与えたまえ』」

エリク「何が来る、分からない! メロウ! ぼく飛ぶ!」(上空のメロウライトに向かって)

サネジア「『影吠えよ 光捕らえよ 主の命に降り立ち示せ』!」

エリク「いよ……っと! ありがとう。……なんの魔法?」

フェン「……一度、会ってみたかったんだよねぇ」

エリク「……あれって、もしかして……やっぱりそうだ!」

オルディ「……今日はほんっとうに、賑やかな日」

フェン「大きなおおかみ」

エリク「サネジアの……お使い……っ!」

フェン「……フェイリス。のせて」

エリク「……フェンが仕掛ける」

フェン「……いい子だ。『エンテイロー・ペトラー』」

サネジア「岩の翼か」

フェン「『トゥレコー』!」(突き抜けるように飛ぶ。突進)

エリク「ぐっ、すごい風、うーわっ!」(風に煽られ、空中で一回転。地面に落ちる)

サネジア「……っと。猪突猛進か。オオワシのくせに?」

フェン「そっちこそ、その子、薬種って聞いてたけど。いま、影になったでしょ。本当に生き物?」

サネジア「傷の一つでも付けりゃ、すぐ判るだろうよ。付けられりゃあな」

フェン「……いちいちいらっとするよね」

サネジア「なによりだ。……おいエリク」

エリク「ぃい、ハイっ!? 今度は何!?」

サネジア「エリク。お前も仕掛けてきたって事で良いんだよな」

エリク「防衛だけどね!? 家のね!!」

フェン「なにを今更。あんな身のこなししておいて」

サネジア「ずいぶん楽しそうに動くじゃねえか」

フェン「……戦ってみたくなるよねぇ」

サネジア「……奇遇だなぁ。俺もだ」

エリク「そういうの絡み酒って言うんだよぉ!」

フェン「だいじょうぶ。加減はするから」

サネジア「手加減なしで来いよ」

エリク「……ねえオルディ!」

オルディ「うーん?」

エリク「ぼく、もうちょっと本気で行こうかなぁ!?」

オルディ「おお?」

エリク「好き勝手に魔法の打ち合い始めてさぁ、こっちはハラハラしながら止めに行ったのに!」

オルディ「……んっふっふ。そうだねぇ」

エリク「手加減してやるとか言われたらさあ!」

オルディ「ムカムカっとくるなぁ! ……うん、みいんな酔ってんね?」(独り言)

エリク「オルディが最後の砦なら大丈夫だよね!」

オルディ「おーおーその意気だぁ、やっちゃえエリクぅ!」

エリク「これ、折れないか不安だなあ……氷。……『水は 冷たく 纏う 硬く 鋭く』……『剣のように』」

サネジア「おぉ? 上出来じゃねえか。いつもこうならなぁ」

エリク「うん! むかむかする!」

フェン「僕の気持ち、わかるでしょ」

エリク「フェンだって大概だからね!? ……よし。サネジア。フェン。覚悟はいい?」

サネジア「こっちのセリフだ」

フェン「『エクセスティ・エクスロー』」

エリク「メロウライト、もっと歌うように。自由に。驚かせよう。……構え。さん……にぃ……いち! 『ぼくに波を』、とぉりゃーっ!」

サネジア「『吠えよ 打ち飛ばせ』」

フェン「『アイロー』!」(避けて飛び立つ)

エリク「消し飛ばされた、けど! 真ん中空いた、メロウ、ゴー! 『かれに波を』!」(波の挟み撃ちを仕掛ける)

サネジア「うお」

エリク「踏み込む、つらぬく!」

サネジア「『噛み落とせ』」

エリク「つっ、あ! ぼくのデッキブラシ!」(ぼきりと折られてしまう)

サネジア「『理を 砕き明かせ』!」

エリク「そんな! 波まで全部消えちゃった!」

フェン「『スパークラ・シヤードル』。『サモニア・サンドラ・スティラッカ』」

サネジア「……お空で小手先やってんじゃねえ。『かげひかり いとをくずせ』」

フェン「『エンテイロー・グラフォー』」

サネジア「……フェイリスに飲ませたか」

フェン「もう消させはしないよ。『エンテイロー・ネフェレー』……」

エリク「まだまだ! 『ぼくにつるぎを』!」

サネジア「同じ手は食わねえ」

エリク「メロウ飛ぶ、『足に力を』! ……っはは、ナイスキャッチ!」

サネジア「……いや、お前が食うか」

エリク「ねえメロウ、これ出来るかな! ……『彼につるぎを』っ」(大きな氷塊がいくつも出来る)

サネジア「行けるか、悪食。……『狼よ 口を開けよ』」

エリク「できたっ、じゃあこれはどう? 『彼に切っ先を』!」(氷塊の先端がサネジアに向く)

サネジア「『牙を研げ』」

エリク「……すごい、すごい! メロウ、君に会えて嬉しいよ!」

オルディ「ううん、空気がびかびかしてきたぞぅ……シューガ。見とれてないで。そろそろ出番だよん」

フェン「『ラスパークラ・ルシヤードウル』……『ディナミス・ディナミス・ディナミス』!」

オルディ「……さあおいで、花っこちゃん。エリクちゃんとも約束したし、今日はとびっきりの春だから。嵐を起こそう」

エリク「さあ、行くぞーーっ!」

オルディ「花と花と、花の嵐を」

エリク「『彼らに つるぎを』!」

サネジア「『食い荒らせ 解き滅ぼせ』!」

フェン「『エンチャンテ!』」

オルディ「『満ちる魔法よ 時に 花に 春に従え』!」

フェン「っ」

サネジア「!」

エリク「!?」

オルディ「……おお〜、キレッキレじゃんかシュガ! もっと行くぜぇ! 『刻一刻と巡る世界に 今いっときの春である』!」

エリク「ぐっ、花で……見えない! メロウライト!」(強い風に、無数の花弁)

フェン「……フェイリス、ちゃんと、飛んで」

サネジア「っ、……『反駁(はんばく) 固着』!」

オルディ「『勇猛の雷は 雨粒となりて』『決然の剣は せせらぎとなりて』『不敵の牙は もはや敵とは成り得ない』!」

サネジア「ち、押しなが、される……!」

オルディ「『満ちる魔法よ 踊れ 踊れ』!」

フェン「……もうむり」

エリク「うわぁーっ!」

サネジア「はなびら風情が……!」

オルディ「『春の夜に祝福されし 花の宴のおしまいに』ッ! 『さいわいあれ さいわいあれ さいわいあれ』ーーっ!」


(花弁と風の、ざあざあという音。やがて静まり返る)


サネジア「……はあっ、はあっ……」

フェン「……」

オルディ「……(ぱんぱんと手を叩いて)はあーい! もーうおしまいっ!」

エリク「……つ、つ、」

オルディ「シュガテール! ハイターッチ!」

エリク「つかれたあー……っ!」

オルディ「カンカンカーン! オルディちゃん、ウィンっ! いえいっ!」

フェン「……ふぇいりす、もういいよ」

エリク「ふーっ、ふうっ……メロウライト、大丈夫? ……っはは。ぼく、楽しかったー……!」

オルディ「ほぅら、宴会はもうオシマイ! 片付けはもうねぇ、ぜぇんぶ明日! 俺っちゃんは先に寝るぞ!
     おい、はっちゃけ魔法使いども! 明日は朝から後片付けに起きること!
     起きてこなかったらなぁ、俺様謹製の罰ゲームを受けること! わかったか酔っ払いぃ!」

サネジア「お前も一緒だろが、……いや……こいつの酔いは分からん……」

フェン「……」

オルディ「そこ! 庭で適当に寝ないことー!」

フェン「……んー……」

オルディ「あと! ……んふふ、フェイリース、シュガー、メロウライトー、……あそうだ、お前さん。お名前は?」(狼に向けて)

サネジア「……エヴァンジェリンだ」

エリク「……エヴァンジェリン……?」

オルディ「そう! じゃあエヴァンジェリン、君らは適当に帰ったりしないこと。
     はしゃぎ過ぎてお疲れちゃんズなんだから、明日の朝! ちゃあんとめいめい、ご主人に挨拶をしてから帰りなさい! よいな!」

サネジア「……ああー……」

オルディ「以上! 勝者オルディ様の命令である! 質問は受け付けませーん! んじゃおやすみ! ぐんない!」


(オルディ、部屋へ)


サネジア「……疲れた……」

エリク「ねえ、サネジア」

サネジア「……何だ、クソモップ戦士……」

エリク「ひどい名前!」

サネジア「……何だ」

エリク「……この子なんだね、エヴァンジェリン」

サネジア「ああ……」

エリク「サネジアの、お使いの事だったんだ……『翼を分かつ カラスが一対』……なんだったっけ。蛇と、うさぎと……。
    それから、『大飯食らいの エヴァンジェリン』…………唯一、名前が書いてあった」

サネジア「……お前」

エリク「……へへ」

サネジア「読んだのか。あの手紙」

エリク「最初の一枚、だけだけど」

サネジア「……そうか」

エリク「まさか、何枚も入ってるとは思わなかった!」

サネジア「試験は念入りに、だ」

エリク「ええー……」

サネジア「しかし、……そうか。そうかい」

エリク「いつか、言わなきゃと思ってたんだけど」

サネジア「気にするな」

エリク「へへ。……あのさ、エヴァンジェリンって、体も尻尾も、大きいんだね……」

サネジア「……好きにさわれ」

エリク「ほんと! わあい、エヴァンジェリン!」(抱きつきに行く)

サネジア「あー、マジで、疲れた」

フェン「おつかれさま」

サネジア「なにが、おつかれさま、だ。難癖つけて絡みやがって。誰のせいだと思ってる」

フェン「売った喧嘩を、買った人のせい」

サネジア「金払った方が悪ぃってか。悪徳商人かよ」

フェン「毎回、意外と楽しそうな顔してるよ」

サネジア「『チャック』」(最後まで言わせない)

フェン「んん」

サネジア「……フェイリス、こっちへ来い。……よく主人についた。唱えた呪文を宿して受け持つのは、覚悟がなけりゃ、なし得ない事だ」

フェン「んー……」

サネジア「『ほどけ』」

フェン「んぁ。……これ、気になってるんだけど、唱えた人にしか解けないの」

サネジア「んなこたねぇよ」

フェン「そっか。研究しなきゃ……」

サネジア「っふ。そんな真面目になるかよ」

フェン「……花、なくならないね。あんなに暴れたのに」

サネジア「……そうだな。いくらか燃やして削ったと思ったが」

フェン「最後のあれで、吹き返したのかな」

サネジア「さあな。さすが、ラナンキュラスと言うべきか……いや、オルディの使い、というべきか」

フェン「どっちもでしょ。何、あの最後の花吹雪」

サネジア「何も見えなかったな」

フェン「よく飛び続けたと思うよ、フェイリス」

サネジア「しかも、花自体は目くらましで、呪文なんか一瞬でバラしてきやがる……」

フェン「……あぁ」

サネジア「……考えたくねぇー……」

フェン「同じく……」

サネジア「……まあ、ざっと見。魔力の暴力ってだけでもなさそうだ」

フェン「そう?」

サネジア「前の一件で採取した花も、枯れずにあるからな。サンプルと比較したい」

フェン「……さんぷる」

サネジア「……そうだフェン、」

フェン「サネジア」

サネジア「……お前サンプルは」

フェン「僕もエヴァンジェリンに挨拶するよ」

サネジア「おい」

フェン「それと、首元にハグを少々」(行ってしまう)

サネジア「……あいつ、明日覚えてろよ……ふあぁー(あくび)。……水飲んで、寝るか……」





=====


サネジアM「翌朝。居間に行くと、庭先には、木ベラを片手に、皿をタオルに拭かせているオルディがいて」

オルディM「オオワシに背中を預けて、頭の痛みにうめきながら、人魚と歌を歌っているエリクがいて」

フェンM「風を受けて目を細める大きな狼。シャボン玉と踊るラナンキュラス。家で一番賑やかな春の朝。僕はまだ、夢の中にいる」


             
エリク「『異種のごちそう 飲めや歌えや春の嵐』」



エリクM「お昼を過ぎて起きてきたフェンが、サネジアにチャックをされて、シェフ謹製のパイを顔に投げられるまで! あと3時間45分」











20190411
加筆修正:20190413


[山積台本]


<ぱちぱち>



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あとがき
人は花に、想いを乗せます。
人は花を前にして、季節や記憶を感じ、旅の道行に想いを馳せます。
花は人に、何を思うのでしょうか。

案外、くすくす笑っているばかりだったりして。



ご感想、お問い合わせなどございましたら、こちらの 投書箱 からど うぞ。





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